4.伊勢神宮・西行谷

【芭蕉自筆影印】
 松葉屋風瀑か 伊勢に有ける越尋音信(オトヅレ)て 十日計足をとヾむ 腰間に寸鐵(短刀)をおひす 襟尓一嚢を可計て 手尓十八の珠を携ふ 僧尓似て塵有 俗尓ゝて髪なし 我僧尓あら春といへとも 浮屠(フト)の属に多くへて 神前尓入事をゆるさす 暮て外宮尓詣侍り遣るに 一ノ華表能陰本のくら具 御燈(ミアカシ)處ゝに見えて ま多上もなき峯の松風 身尓志む計 婦可き心を起して

 みそか月なし千とせ能杉を抱あらし

西行谷能麓耳流あり をんなとも能芋をあらふを見るに

 芋洗ふ女西行ならハ哥よま無

其日能かへさ ある茶店耳立寄遣るに てふと云遣るをんな あ可名尓發句せよ登云亭 白ききぬ出し遣る尓書付侍る

 蘭能香やてふ能翅(ツバサ)尓堂き物春

閑人能茅舍(ボウシャ)をとひて

 蔦植て竹四五本能あらし哉


(松葉屋風瀑が、伊勢に有けるを尋音信(オトヅレ)て、十日計足をとヾむ。腰間に寸鉄(短刀)をおびず、襟に一嚢をかけて、手に十八の珠を携ふ。僧に似て塵有、俗に ゝて髪なし。我僧にあらずといへども、浮屠(フト)の属にたぐへて、神前に入事をゆるさず。暮て外宮に詣侍りけるに、一ノ華表の陰ほのくらく、御燈(ミアカシ)処ゝに見えて、また上もなき峯の松風、身にしむ計、ふかき心を起して、

 みそか月なし千とせの杉を抱あらし

西行谷の麓に流あり。をんなどもの芋をあらふを見るに、

 芋洗ふ女西行ならば歌よまむ

其日のかへさ、ある茶店に立寄けるに、てふと云けるをんな、あが名に発句せよと云て、白ききぬ出しけるに書付侍る。

 蘭の香やてふの翅(ツバサ)にたき物す

閑人の茅舍(ボウシャ)をとひて
 
 蔦植て竹四五本のあらし哉 )

【句碑】
①詠地付近になし

(三十日月なし千年の杉を抱あらし)

②詠地付近になし

(芋洗ふ女西行ならば歌よまむ)

③詠地付近になし

(蘭の香や蝶の翅に薫物す)(ツバサ)

④詠地付近になし

(蔦植て竹四五本のあらし哉)



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