松葉屋風瀑か 伊勢に有ける越尋音信(オトヅレ)て 十日計足をとヾむ 腰間に寸鐵(短刀)をおひす 襟尓一嚢を可計て 手尓十八の珠を携ふ 僧尓似て塵有 俗尓ゝて髪なし 我僧尓あら春といへとも 浮屠(フト)の属に多くへて 神前尓入事をゆるさす 暮て外宮尓詣侍り遣るに 一ノ華表能陰本のくら具 御燈(ミアカシ)處ゝに見えて ま多上もなき峯の松風 身尓志む計 婦可き心を起して
みそか月なし千とせ能杉を抱あらし
西行谷能麓耳流あり をんなとも能芋をあらふを見るに
芋洗ふ女西行ならハ哥よま無
其日能かへさ ある茶店耳立寄遣るに てふと云遣るをんな あ可名尓發句せよ登云亭 白ききぬ出し遣る尓書付侍る
蘭能香やてふ能翅(ツバサ)尓堂き物春
閑人能茅舍(ボウシャ)をとひて
蔦植て竹四五本能あらし哉
(松葉屋風瀑が、伊勢に有けるを尋音信(オトヅレ)て、十日計足をとヾむ。腰間に寸鉄(短刀)をおびず、襟に一嚢をかけて、手に十八の珠を携ふ。僧に似て塵有、俗に ゝて髪なし。我僧にあらずといへども、浮屠(フト)の属にたぐへて、神前に入事をゆるさず。暮て外宮に詣侍りけるに、一ノ華表の陰ほのくらく、御燈(ミアカシ)処ゝに見えて、また上もなき峯の松風、身にしむ計、ふかき心を起して、
みそか月なし千とせの杉を抱あらし
西行谷の麓に流あり。をんなどもの芋をあらふを見るに、
芋洗ふ女西行ならば歌よまむ
其日のかへさ、ある茶店に立寄けるに、てふと云けるをんな、あが名に発句せよと云て、白ききぬ出しけるに書付侍る。
蘭の香やてふの翅(ツバサ)にたき物す
閑人の茅舍(ボウシャ)をとひて
蔦植て竹四五本のあらし哉 )
【句碑】
①詠地付近になし
①詠地付近になし